FCAは2021年7⽉13⽇、⾳楽作家が直⾯する著作権に関する3つの課題 1. 私的録⾳録画補償⾦制度、2. 楽譜の無断コピー・無断配信、3. ⾳楽教室での演奏利⽤を取り上げ、音楽作家への正当な対価を求める意⾒表明を⾏いました。

FCAが意見表明するに至った経緯について小六禮次郎理事長にお話を伺います。

― FCAが意見表明に至った経緯を教えください。

(2021年)7月13日、FCAは⾳楽作家への正当な対価を求める意⾒表明を⾏いました。⾳楽作家にとって著作権使⽤料は⼤切な収⼊源なわけですが、全ての分野で正当な対価を得られているとは⾔えないというのが現実なんですね。そこでFCAは、⾳楽作家を代表してこの状況の打開に向けて意⾒表明をしたわけです。

― 今回取り上げた課題について教えてください。

創作者の権利が「おろそか」にされている案件があります。それは⻑年に亘り解決を見ない3つの著作権に関する課題です。1つは「私的録⾳録画補償⾦制度」、そして「楽譜の無断コピー・無断配信」、そして最近話題になっている「⾳楽教室での演奏利⽤」。この3点は実は長いこと解決が図られず、音楽作家は正当な対価を得ることができないままになっています。そこで今回は、特にこの3点を取り上げて意見表明を行いました。

私的録音録画補償金制度について渡辺俊幸顧問にお話を伺います。

― 最初に「私的録音録画補償金制度」について教えてください。

個人がプライベートで楽しむために、限られた範囲であれば他人が創作した著作物 −例えばCDなど− を承諾なく無償でコピーすることができる、と法律では定められています。ただデジタル技術が発達し、オリジナルと全く同じコピーができるようになってきて、それが一般家庭まで普及してきました。個人でCDをレンタルしてきて、それをコピーして自分で楽しんで聴いたり、家族で複数の機器で聴きたいから何枚もコピーして、家の色んな場所やカーステレオで聴くなど、様々なことが行われてきました。それは個人の使用ではあるのですが、全体として見れば無視できないほどの規模で録音・録画がされるようになったと言えるわけです。もしコピーできなければ、子供が買ったものを「もう1枚お父さんも欲しい」と言って買うかもしれない。その機会が失われてしまったということです。ですから、この大規模な複製を自由に許していたのでは、権利者が本来得られるはずの利益が不当に害されることになります。そこで、利用者にはプライベートな録音・録画を許しつつも、権利者に補償金を支払っていただいて両者の利益のバランスを図ろうというのが「私的録音録画補償金制度」というわけです。

― 補償金は音楽作家にも分配されているのでしょうか?

はい、そうです。これはJASRACを通して作家にきちんと分配されます。

― 補償金は誰が支払うことになっているのでしょうか?

現在の制度では、録音・録画を行う個人が補償金を支払うということになっています。ですから、メーカーなどは補償の対象となる機器の販売代金に補償金を含める形で補償金を集めます。つまりユーザは購入の際、予め補償金を支払っていることになるわけですね。補償金の額は、例えばCD-Rであれば価格の1.5%相当ということになっています。

― 補償金の対象機器について教えてください

今CD-Rと言いましたが、それは音楽専用CD-Rに限られています。あるいは、今はほとんど使われていないDATやMDといった機器などが補償金の対象となっています。

― 補償金制度はいつできた制度なんでしょうか?

日本では1992年に創設された制度です。補償金の額は2000年頃までずっと増えて、かつては40億円を超えることもありました。

― 補償金制度は今も機能しているのでしょうか?

私的録音録画に使用される新しい機器 −スマホや音楽専用のオーディオ・プレイヤーなど− のようなハードが次々と登場してきました。そして補償の対象となる機器は政令で定めることになっているわけですが、権利者とメーカーの意見が対立したままで、新しいハードは全く補償金の対象に指定されていません。ハードの世代交代が進むにつれ、補償金額がどんどん減っています。私的録画の補償金は2013年から0円で、私的録音の補償金は2020年度には、かつての40億円から1900万円にまで減ってしまいました。この制度は完全に機能不全に陥っていると言えます。

― 文化審議会での議論について教えてください。

私は、2017年から文部科学省の文化審議会と著作権分科会で委員を務めています。文化審議会・著作権分科会では、私が委員になる前から補償金制度の見直しについてずっと議論されているんですね。分科会に補償金制度を検討する小委員会を作って、集中的に議論していたこともあります。

― 議論に決着を見ない理由は何でしょう?

審議会・分科会では、権利者サイドとメーカーサイドの意見の隔たりが大きく、なかなか議論に決着がつきません。権利者サイドの意見は、当然のことながら新しい種類の機器・記録媒体を幅広く補償の対象とするべきで、支払義務者を個人ではなくメーカーにするべきだと考えています。複製機能を持った大量の機器・メディアを製造して利益を得ているのはメーカーですから。これに対して、メーカーサイドの意見は「補償金制度を廃止しろ」と全く議論が噛み合わない状態です。

― 補償金制度に関する権利者サイドのこれまでの活動について教えてください。

2008年には、補償金制度に関係する権利者28団体が「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」という組織を作って、「Culture First~はじめに文化ありき」という活動を展開しました。

― Culture Firstについて教えてください。

文化の価値を訴えて、消費者の私的複製によって発生する権利者の経済的不利益を穴埋めするよう、補償金制度の拡大を求めるという活動でした。

― 運動の背景について教えてください。

日本ではコンテンツを活用したビジネスの推進が叫ばれているわけですが、コンテンツを単なる「もの」としか見ない風潮もあります。これに対し、文化を最重要視するという社会の実現を求めたわけです。

― 補償金制度について現在、どのような議論がされているのでしょうか?

「知的財産推進計画」という政府の方針があります。これは知的財産の創造と保護、活用について毎年政府が方針を定めるわけです。昨年の計画では、補償金の対象とする具体的な機器の特定について、関係府省の合意を前提に文部科学省を中心として検討を進めること、そして2020年度内に結論を得て年度内の可能な限り早期に必要な措置を講ずるということが、方針として示されました。

― 議論は進んだのでしょうか?

2020年度内に時期を区切って政府が方針を定めたということは、評価できます。ところがその後、関係府省庁での検討と併せて⽂化審議会・著作権分科会内で意⾒交換が⾏われていますが、2020年度内には結論が出なかったんです。機器を特定しようと言っておきながら、少なくともハイレゾ・ウォークマンのような音楽専用としか思えない機器をなぜ速やかに特定できなかったのか。私は文化審議会の中でも苦言を呈しましたが、残念ながら2021年8月になっても具体的な結論は出ていません。

― 補償金制度の今後について教えてください。

まずは、ハードの追加指定が最優先ですね。私的録音録画に用いられるハード、例えばパソコン、スマホ、携帯型のオーディオ・プレイヤー −これは音楽に特化したものが発売されています− を補償金の対象にするということです。そうすることで、私的録音録画について音楽作家に対する正当な対価を実現させていく。そのうえで、私的録音録画に関する権利者への対価還元の適切な在り方の議論を求めていきたいと思います。